-- 今年は抜刀術・劔術の他に、杖術、二刀劔術の指導も新たに始められましたが、そこにも何か深い意味がありそうですね!
王子 そうですね。簡単に言うと、杖術、二刀劔術は、左右の半身捌きを理解する上で極めて分かりやすいんですよ。
-- 左右半身とは要するに、左半身・右半身ですね!
王子 はい、武術用語では、左側躰・右側躰とも云いますが、この左右側躰が綺麗に分割するには、精確に云うと、身躰が三枚おろしされる必要があります。
-- 三枚おろしは、元々は魚の捌き方の事で、右身、左身、中骨の3つの部分に切り分ける最も基本的な魚のおろし方の事ですね。
王子 そうです!それに倣って私は「身躰の三枚おろし」という表現を使っています。左半身を左側躰、右半身を右側躰、魚で云う中骨に当たる中央の身躰を本躰と名付けています。その三つの身躰がそれぞれ何処を境にして分かれて、それぞれが何故、どの様に動くのか?を剣術アカデミーで詳細に解説しています。
-- なるほど、そこも明確な言葉で教えて頂けるんですね!その身躰の三枚おろしを理解するのに、杖術と二刀剣術は格好の材料ということですね?
王子 そうなんです。皆さんにとって理解して頂きやすいと思って、杖術も今年から指導し始めました。躰流互身杖術と云い、これまた形(カタ)は何百と存在します(笑)
-- 出た!また何百ですか⁉︎(笑)
王子 はい(笑) 形がそれだけ生み出せる理由は、身躰の開發の仕方がそれだけ沢山あるからです。今の話で言えば、身の三枚おろしを開發する具体的方法が、杖という武具を使う事で、何百通りと生み出せるわけです。
-- なるほど!ではまさに、剣も杖も、身躰開發の師匠ということですね!その剣を二刀持つというのは、格別な意味はあるのでしょうか?そもそも、一刀と二刀の身躰開發における違いがあるのであれば、教えて頂けますか?
王子 はい、それはまさに格別の意味がありますよ。まず、二刀劔術というのは、人間にとって極めて自然な劔術なんですよ。
-- 自然な劔術??
王子 はい、なぜ自然かと云うと、人間には二本腕があるからです。二本腕がある人間が、左右それぞれの手に劔を把持して扱うのは、極めて自然だし、理に適っているんですよ。
-- なるほど!!当たり前のことですが、全く気づいていませんでした!ということは、一刀の方が不自然ということですか?
王子 いや、一刀が不自然とかそういうわけではありません。身のこなしが自然であれば、何をやっても自然になりますからね。ただ、二刀には一刀にはない難しさと簡単さがあり、一刀には二刀にはない難しさと簡単さがそれぞれあるんです。
-- そうなんですね!気になります(笑)
王子 それは是非道場で自らの身で躰感して頂きたいですね。簡単に言って、一刀ずつをそれぞれの手に持つわけですから、手之内がより重要になるのと、左右側躰の開發には極めて有効なのが二刀劔術です。
-- 左右の半身捌きに有効ということは、王子がよく仰る左右の身躰が協調して動いて、無足になるということになりますか?
王子 はい、まさにその通りです。無足に関しては、二刀だからなり易いというわけではないですが、左右半身が互いに協調して動くということを理解し易いのは二刀ですね。つまり、二刀をどう扱うかによって、左右側躰がどう分立してくるかが決まる。真の二刀流とは、左右に分かれて左右がなくなるということです。だから、うちでは二刀劔術の名称を、「互刀流雙龍劔」と名付けているんです。
-- 互刀流雙龍劔!カッコよすぎます!「左右に分かれて左右がなくなる」とはどういう意味ですか??
王子 分かりやすく、歩行運動で考えましょう。良い歩行運動では、足の踏み込みと引き上げが同時に起きます。結構これにズレがある人が多いんです。例えば無理に大股で歩こうとしている人はズレがちですね。良い歩きでは、必ず足の踏み込みと引き上げが同時に起きるんです。
-- なるほど。。足の踏み込みと引き上げが同時と聞くと、当たり前じゃないかと思いがちですが、よく観察するとズレがありますね。そこにズレがあると、例えばどういった弊害があるんですか??
王子 軸足が出来てしまいます。そうすると、その軸足側に多大な負担をかけることになります。いくらハムストリングスを使って大腿骨を後ろに振って歩けたとしても、その様な歩き方ではハムストリングスに部分疲労が溜まります。
-- なるほど。。腿裏も使えばいいというものじゃないんですね。
王子 そうです。その在り方、どういう使われ方をしたかが一番重要です。また、軸足歩行になってしまうと、軸になる足、動かす足、とその都度脳の中で区別されてしまいます。これは日常生活は勿論、武術的には極めてマイナスに作用します。
-- 軸足と動足が脳の中で区別されるというのはどういうことですか?
王子 足を踏み込んで軸にしてから反対の足を引き上げるという歩き方、これが軸足歩行です。こうなってしまうと、大脳で言うと動足側は運動野及びそれから発する運動神経がよく使われますが、軸足側は運動野、運動神経があまり使われない。ところが、無足と云われる踏込みと引上げが常に同時に起きる歩法になると、両足共に、踏込むという運動と引上げるという運動を行う事になります。そうすると、両足が運動をしているのだから、両方の大脳運動野及び運動神経が使われます。当然、そうやって運動できるという事は感覚を知覚できていなければできないので、左右の感覚野、感覚神経もしっかり使われるのです。
-- なるほど!そうすると、無足の運足は、左右の大脳の運動野・感覚野の広範囲を使うということになりますね!
王子 その通りです!今は大脳だけに限って話していますが、そうやって左右大脳の運動野・感覚野が常に働いていると、良い事が二つあります。知りたいですか??
-- 尻腿ッ‼︎
王子 ひとつは、脳の負担が減ります。つまり、片方だけという脳の一部を使わず、両脳を使うので、脳への負荷が分散します。軸足が出来る身のこなしは、軸脳を生むのです。
-- 軸脳!!これは新たな視点です!
王子 私自身は随分前から言っています(笑)。軸足は有名な言葉ですが、足だけではなく、軸手、軸腕、軸甲、軸肋、軸尻、軸目など、左右あるカラダのどちらか一方を軸にして、もう一方を運動させるというカラダの使い方が身についてしまっている人は多いですね。
-- なるほど。例えば、テーブルに肘を着いて、ご飯を食べる人は多いですが、それも典型例ですね!
王子 そうですね。分かりやすい例だと思います。左肘をテーブルに着いて軸にして、右手で食べる。これはカラダが二つに割れていない典型です。本来、日本食というのは、必ず両手を同時に運動させるように出来ているんですけどね。
-- 確かに!和食は、片方にお椀を持って、もう片方でお箸を操作しますもんね!そうか、常に左右のカラダが運動する必要があるのが日本食ですね!
王子 はい。食だけではなく、日本文化の所作動作全てがそうですけどね。
-- なるほど。片方を軸にして、もう片方を動かすということと、例えば利き手・利き足・利き目・利き耳とかは関係ありますか?
王子 ありますね。利き手とは何か?と言うと、利用しやすい手ということ。つまり、運動しやすい手。それは即ち、脳で言うと運動野が働きやすい方であり、運動神経が働きやすい方ということです。
-- なるほどー!そんな風に考えたことなかったです!そうすると、カラダが三枚おろしされて、左右にカラダが割れてくると、利き手がなくなってくるということですか??
王子 そういうことです。左右のカラダが常に同じように運動するので、左右共に運動神経が発動しやすくなり、勝手に左右共に手も器用になってきますし、左右どちらでも物を投げられるようにもなってきます。二刀劔術では、それが出来ないと話になりませんしね。
-- それは凄い話ですね!
王子 はい、そういうカラダになると、その身のこなしをさせているのは脳ですので、脳も左右が常に働いて片方の脳に負担をかけないので、脳疲労をしなくなります。武術家は脳疲労している場合じゃありません。忍者が脳疲労してたら忍者は勤まらないですよね(笑)
-- 確かに(笑)。軸足歩行は軸脳をつくり、それが脳疲労の元になっているとは、衝撃のお話です!左右大脳の運動野・感覚野が常に働くと良い事の二つ目は何ですか?
王子 動きに切れ目がなくなり、循環するようになることです。運動野と感覚野、運動神経と感覚神経は、言わば陰と陽の関係です。言い方を換えれば、インプットとアウトプット。両者は繋がっています。左右の運動野・感覚野、運動神経・感覚神経が常に働いている状態だと、右も左も、運動したと同時にそれを知覚してまた運動する…というサイクルが脳と神経レベルで常に起きるわけです。
-- なるほど!それで動きに切れ目がなくなるんですね!
王子 そうです。これは武術やスポーツでは極めて重要なことですね。武術ではよく、円の動きと云いますが、それは脳・神経レベルでそういう状態になっていないとできる事ではないということです。
-- 攻防一体というのも、そういうことですよね?
王子 はい、まさにそうです。攻防一体とは、常に左右の身が攻も防も出来る状態であるということです。そんな話も、劔術アカデミー道場では何度もしていますよ。
-- いやぁ、ホントに興味深いです!二刀劔術は、そういう身のこなし、脳神経を養成するのにうってつけ!ということですね。
王子 そうですね。互刀流雙龍劔とは、二刀を互いに操ることで、左右二躰が龍の如く踊り出すという意味を込めた名称です。そして、左右二躰と、真ん中の本躰三つが龍の如く踊り出すことを、八岐大蛇ならぬ「三岐大蛇(みまたのおろち)」と名付けています。
-- いやいや、凄すぎる話な上に、いちいちネーミングセンスが良すぎですよね?(笑)
王子 ありがとうございます(笑)。でも、真面目な話、ネーミングは大事にしていますよ。正しく傳える上で、名前は大事ですからね。
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